タイトルロゴ『夢と現の交わる路』

中編
 退魔20番隊の幹部たちの働きにより、調べていくうちに、人の仕業ではないということが分かってきた。この京の都で人の仕業ではないということは、鬼が絡んでいるということだ。
「そういうわけですので、犯人の行方探し、対処は我々、退魔20番隊に任せていただきたいのですが……」
 その日、町の奉行所を訪れた戒は、役人へとそう話を持ちかけていた。
「鬼が絡んでいるのか。だったら、我ら一般人では手は出せないな……分かった。犯人である鬼の捜索、退治は任せよう。こちらは引き続き、行方の分からぬ娘さんたちの家族の対処を行うとしよう」
 話を聞いた役人は一つ頷くと、戒にそう告げる。
「ありがとうございます」
 戒は一礼して、町の奉行所を後にした。
「危険かもしれないけれど、囮を立てようと思うんだ」
 奉行所から帰ってきた戒は、虎牙たちを前にそう話を切り出した。
「囮……ねぇ。そう上手く……」
「女性狙いってことは、あたしが囮をすることになるのかしら?」
 虎牙の言葉を遮って、諒が訊ねてくる。
「そうだね。流石に他の隊士たちに、囮なんて危険なことをさせるわけにも行かないし……諒なら、捕まったとしても抜け出してくるのは得意だよね?」
 頷きながら答える戒に、諒は「もちろん」と頷く。
「諒にはきついかもしれないけれど、早速、今夜から犯人が現れるまで、囮作戦を実行する。他の隊士たちは、交代制で囮になる諒の見張りを……。相手が出てきたら、いつでも取り囲めるように、ね」
「了解」
 戒の指示に、虎牙が答える。
 そうして、その夜より囮作戦が開始された。
 作戦が開始されてから、数日。
 夜も更け、人の出歩きが少なくなった頃、諒は路地裏などを歩く。今のところ、連れさらわれた娘たちが商家や武家の出だと聞いたため、諒もそのような出の娘に見えるような姿をして、歩いていた。
 路地裏を監視できる場所には、仲間たちが潜んでいる。そのこともあってか、諒は鼻歌交じりで歩き、隙を見せていた。
 そんなとき、歩く諒の前方に、一つの影が現れた。
 影は諒が近づいてくるのを待つかのようにその場に留まっている。
「……誰?」
 不審に思った諒は、影から距離を置いたところで止まると、声をかけた。
「いえ、美しいお嬢さんが一人でお歩きになっているので、何かあっては危険でしょう? お送りしようかと思いまして……」
 影は答える。声からすると、男だということが分かった。
「結構よ。こんなところで待っている方に送ってもらうなんて、逆に危険に会う気がするわ」
 諒が言うと、男はクスッと苦笑を漏らす。
「確かに……あなたの言うとおりかもしれませんね。でも、私はあなたと共に行きたいのですよ」
 そう言うや否や男は音もなく、一瞬のうちに諒に近づいてきた。
「はやっ!」
 相手の思わぬ速さに、諒は戸惑い、反応し遅れる。その隙をつかれ、男は諒の鳩尾に一撃、肘を入れた。
「くぅっ!」
 諒は小さな呻きと共に、意識を奪われる。
「諒っ!?」
 2人のやり取りをギリギリまで見守っていた虎牙は、異変に気付いて慌てて、建物の陰から姿を現した。
「諒姉さんを連れ去らせて、たまるかー!」
 七海も何処からともなく現れて、男の背後に回ると両の手に握った短刀を振るった。
 男は諒を抱え上げながら、その短刀の太刀筋が分かっていたかのように振り向きもせず、回避する。
「とんだ邪魔が入りましたねぇ……」
 男はくすくすと笑うと、黒い大きな布を取り出した。
「ただ、まだ捕まるわけには行かないのですよ。私の収集はまだ終わっていない」
 そう言うと、取り出した黒い布を翻す。ばさりという音と共に、布が男と、抱えられた諒を包み込んだ。
 そして、布ははらりと地に落ちる。内側に居るはずの男は、手品の如く、消えていた。
「虎白!」
 陰から出てきた白夜が、肩に乗っていた白猫に声をかける。
「にゃっ!」
 白猫は、何かを追うように、暗闇に包まれた街道を駆けていった。
「これで大丈夫です。きっと、虎白が諒さんの行方を辿ってくれます」
 悔しそうに、暗闇の先を見つめる虎牙に、白夜が声をかけた。
「あ、あぁ……」
 念のためと、男の残した黒い布を拾い上げ、一行は一旦、屯所へと帰っていった。

≪前編 後編≫