ガチャリと玄関のドアを開けて、中へ入ってくると同時に、朱鷺は抱きしめられた。
もちろん、風姫に。
「おかえり、朱鷺。あ、あのね、目、閉じて?」
「ただいま。……なんでだ?」
抱きついてきた風姫を軽く抱き返しながら、朱鷺は問う。
「何でもー! ほらほらっ!」
風姫は手を伸ばして、朱鷺の瞳を伏せさせる。そして、彼の手を引くと、ダイニングへと導いた。
「もういいよー?」
風姫の声に、朱鷺はそっと目を開ける。
ダイニングの中央にあるテーブルの上には、テーブルいっぱいに並べられた料理。
朱鷺は、キッチンを見た。鍋も包丁も綺麗なままだ。
「これ、風姫の料理?」
念のため、朱鷺は風姫に訊ねてみる。
「そんなわけないじゃない。……それとも、わたしの料理で腹痛起こしたいとでも?」
ふるふると、首を横に振る朱鷺。卵焼き1つでもキッチンが大惨事になるのだ。風姫が1つの料理を作ろうものなら、キッチンが綺麗なままであるはずがない。
「さっきまでね、炎香ちゃんが来てたの。それで、料理手伝ってもらって……朱鷺の誕生日、過ぎちゃった……んでしょ?」
「誕生日……そいえば、過ぎてたっけ」
「だから、わたしが料理出来れば、手料理の1つでも出来たんだけど、流石に手伝い、だけだけど……。お誕生日、おめでとう」