朱鷺の朝は結構早い。
別段、低血圧ってわけでもないので、いざというときはギリギリまで寝ているのだが、学園の食堂はいつも混むので、弁当を作っていくようにしているのだ。
その日も、いつもどおり、目覚ましより早く起きると、腕の中で寝ていた子狼――もとい、風姫の頭を一撫でした。
撫でられて、風姫は朱鷺の胸に顔を埋めてくるが、起きる気配はない。
そのまま起こさないように、ベッドから出ると、朱鷺はキッチンへと向かった。
弁当の材料を適当に用意して、手馴れた手つきで作っていく。
暫くして、眠い目をこすりながら、風姫がキッチンに顔を出してきた。
「おはよ、ひめ」
弁当箱の中に盛り付けていた手を止めて、顔を上げる。
「ふにゅ……うん、おは……」
椅子を引こうと手をかけながら挨拶する風姫は、また眠ってしまいそうな、そんな挨拶を返してきた。
苦笑し、朱鷺は風姫に近づく。
「ふにゃ……?」
近づかれ首を傾げて見上げる風姫に、朱鷺は口付けた。
微かに開いた口唇を割って舌を入れ、歯列をなぞる。
「んん……っ」
風姫の舌を見つけると、執拗に絡め、それから離れる。
「……起きた?」
「ふゃぁ……」
真っ赤になった風姫は、こくこくと頷くとそのまま俯いて座った。
「あー、そうそう」
朝食を済ませて、出かける準備をした朱鷺は、リビングでくつろいでいた風姫に向かって、口を開く。
「うん?」
「今日の昼食、弁当、2人分作って、片方そこ置いといたから……お茶とかコーヒーとか淹れる以外でキッチン使うな」
ここ数日、昼食を風姫自身に任せていたら、学園から帰った朱鷺を待っているのは、キッチンの片付けであった。
かなりの料理下手らしい。
「ふにゃ……はぁい」
気の抜けるような声を返してから、玄関へ向かう朱鷺を追ってくる。
「んじゃ、大人しく待ってろ」
「ん、いってらっしゃい」
ひらひらと手を振って見送る。
朱鷺が行ったのを確認してから、風姫はキッチンに入った。
テーブルの上に、小さな弁当がちょこんと乗っている。赤い花のついた包みは、その存在を主張している。
朱鷺が元からこのような柄を持っているはずがないので、きっと風姫のために買ってきたものであろう。
「えへへ……」
その小さな弁当をじっくり眺めてから、笑みを漏らすと、また風姫はリビングに戻っていった。
了。