「音くん、今日も大好きよ」
「そうですか」
それが毎朝のやり取り。
小さな頃から茜には許婚が決められていた。
それは、茜の父の片腕である鷹司音。
それを知った頃は勝手に決められたことに、反発していた茜であったが、ある日を境に、その反発心は消えていた。
それ以降、茜は音に見合う女性になるべく努力もしたし、仲良くなろうともしたのだが。
「茜ちゃんも飽きないね〜」
ちゃぶ台を挟んで反対側で、未那がくすくすと笑う。
「笑い事じゃないよ、未那ちゃん。折角人が心入れ替えたってのに、全然振り向いてくれる気配なしなんだよぉ」
湯飲みを置いて、目の前のちゃぶ台をバシバシと叩く茜。
「何かもう……自分だけ想ってるみたいで、泣けてきそ……」
一頻りちゃぶ台を叩いた後、茜はそれに突っ伏した。
「恋なんて、そんなもんだよ。いつかきっと音さんだって振り向いてくれるって。それまで、どれだけ苦しくても、泣けてきても……愚痴りに来れば? ね?」
お茶を飲み終えた湯飲みを置くと、未那は突っ伏したままの茜の頭を撫でる。
「うん、そうする。ありがとね、未那ちゃん」
撫でられて、頭を上げた茜は未那の家を後にするのであった。
了。