Planet of Dark〜天空の惑星〜

■第1話 正義のヒロイン、誕生?

 放課後の図書室。
 閉館を告げるアナウンスに、伽耶は急いで、貸し出し手続きを終える。
 そして、鞄の中に本を入れると、図書室を出て、下駄箱へと急いだ。
 下駄箱へと向かっているうちに、伽耶はふと、普段とは違うことに気づいた。
 図書室は閉館する時間ではあるが、部活動はまだ続けられているこの時間。静かな図書室から出ると、いつも決まって吹奏楽の奏でる練習音や運動部の掛け声が聞こえてくるのに、今日に限って聞こえない。
「何でだろう……」
 疑問を口にしながら、伽耶は下駄箱へと向かう。
 その途中、廊下の真ん中で倒れている生徒を見つけて、慌てて伽耶はその生徒へと駆け寄った。
「君、大丈夫!?」
 起こしてみるもぐったりとしていて、意識を取り戻す気配はない。
「……どうしよう」
 不安になった伽耶は、保健室が近いことを思い出し、駆け出す。まだ保健医が残っていれば、と。
 けれど伽耶の期待は裏切られてしまった。保健室に居た保健医もまた、机に突っ伏して、意識を失っていたのだ。
「どうなってるのよ……」
 不安が増していく。廊下に倒れていた生徒の傍に置きっ放しにしていた鞄を拾い上げると、伽耶は学内を歩き回り始めた。
 各教室で練習していたであろう吹奏楽部の部員達は楽器を抱え――もしくは手放し――た状態で倒れこみ、職員室に残っていた教師ですら倒れてしまっている。
 棟はまだいくつかあるが、何処も同じような状態だろう。
 どうしたものかと考えながら、伽耶が廊下に出ると、開いた窓から一羽の鳥が入ってきた。そうして、伽耶の直ぐ傍に止まる。
「え? 君、何でっ!?」
 伽耶が驚いたのも無理はない。
 飛んできた鳥は、伽耶の部屋にいるはずの赤い鳥。外出の際、伽耶は窓は閉めるし、鳥篭の入り口だって、小さな小鳥が開けれるほど軽いものではない。
 だからこそ、何故この場にこの鳥が飛んでくることが出来たのか、驚いてしまうのだ。
――……気……いて……、……我の……から、を……求……て……
 伽耶のことを見上げる赤い鳥、そして何処からともなく聞こえてくる言葉。
 混乱する伽耶の目の前に、一つの影が現れた。
「おや? まだ立ってられるヤツが居たのか……」
 嘲笑うような声で呟きながら現れたのは、黒いスーツを纏った長身の男。耳が尖っており、口元からは牙が見える。銀髪は短く切り揃えられ、紅い瞳を細くしながら伽耶の姿を捉えた。
「な、何……貴方……」
 伽耶の言葉など気にもせず、男は伽耶へと歩み寄ってくる。
 歩み寄る男の手にはいつの間にか氷のように詰めたい冷気を放つ長剣を手にしていた。
「我がエネルギーを吸い尽くしたというのに、まだ立っていられるのは邪魔者の証拠……けれど、まだ貴様は邪魔する力を手に入れていない……ならばここで死ぬがいいっ!」
 駆け出す男が長剣を構える。
「いやっ!」
 混乱と恐怖で足が竦み、動けない伽耶は頭を抱えて、反射的に目を閉じた。
 ガキンッと、金属がぶつかり合う音がしたものの伽耶には何も衝撃が来ない。
 何事かと目を開いた伽耶の前には青き竜のようなプロテクト・スーツに身を包んだ男が、銀髪の男の剣を受け止めていた。
「何をぼさっとしている! そいつの言葉、聞こえてるんだろっ?」
 手にした蒼き剣で、銀髪の男と競り合いながら、男は伽耶に向かって叫ぶ。
「言葉……。……やっぱり、あの声は君の?」
 少し前から聞こえる不思議な声。それは今、伽耶の肩に乗っている赤い鳥が舞い込んできたときから聞こえていた。
 訊ねる伽耶に頷くように囀る赤い鳥。
 それと同時に、赤い鳥は伽耶の手首に止まり、小さな機械のついたベルトのようなものに姿を変えた。
「ブレイブ……パワー、チャージッ!」
 不意に思いついた言葉を伽耶は口にする。
 腕のベルトが光り始め、何だか力が集まってくるのが伽耶にも分かった。
「チェーンジ、ブレイバーッ!」
 ベルトの着いた腕を上げると、ベルトから赤い光が溢れ、伽耶を包み込む。
「な、ななな……っ!」
 銀髪の男が驚き、言葉に詰まった。
 赤い光が消えると共に、中から姿を変えた伽耶が現れる。
 伽耶は赤い鳥のようなプロテクト・スーツを纏っているのだった。


続く。